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TRPG関連の妄想置き場
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「そんなに難しい顔をしていると、老ける一方よ?」

 その一言で、私は漸くこの部屋に自分以外がいることに気がついた。
 書類の山から顔を上げると、そこには20台前半の風貌をした――といっても彼女は実際には30目前なのだが――女性が私を見下ろしていた。
 ふと目を向けると壁にかけられた時計は夜の八時を回っていた。

「…なんだ、君か」
「なんだ、君か…とは大層な挨拶ね。ほら、これ。」

 そういって彼女は私に向けて紙束を突き出してくる。

「……? なんだ、これは」
「なんだ、って…あんたまさか聞いてないの?」
「…なんの事を言っているのか私には解りかねるな」

 心底呆れた表情をして私を見下ろしてくる彼女に少々気分を害しつつも、その紙束を受け取り中身に目を通す。

「"チルドレンの能力制御に於ける報告書"? 」
「そ。ここに新しい子が配属されたでしょ? その子たちの能力の見極めをお願いされたのよ。あんたントコの副支部長様に、ね」
「…そんな話私には通されていないわけだが」

 実際に彼女を呼んで行うという話を聞いてはいない。そもそも、チルドレンが配属されるのはもう少し先のことではなかっただろうかと記憶の糸を手繰る。
 だがやはりそのような事を聞いた覚えはなかった。

「…はあ、大方あんたに気を使ったんでしょ。今もこの書類の山々やま。あんた、自分が無理する度に他の人に心配かけてるって気づいてる?」
「私がか?」
「ま、気づかないわよね。アンタ、基本的に澄ました顔していても一杯いっぱいだもの。その書類、こないだの事件のでしょ?」

 彼女の問いに答えずにいると、彼女はもう一度大きくため息を吐きながら私を見下ろしてくる。

「それくらいの情報ならあたしの所にも入るのよ? それで、怪我したエージェントの変わりにチルドレンの配属が早まったの」
「……。」
「ただ、何分急だったようだから。前線に出す力が十分か、あたしのところに見極めを頼んできたんでしょうね」
「そう、だったか」
「あたし自身は非常勤のようなもんだし、あんま口うるさく言うのもどうかと思うけど…あんた、その一人で抱え込むの止めたほうがいいわよ」
「別に抱え込んでなどいない」
「嘘よ。あんたも皆を子供のように思ってるのは知ってるけど、過保護もよくないのよ?」
「本当に、口うるさい小姑だ」
「何行ってるのよ、あたしは独身だしまだま若いわよ? それを言ったら、三十路でバツイチのあんたが――と、ごめんなさい」 

 売り言葉を買っただけだというのに、彼女は急にしおらしく、口を結んで私に謝罪の言葉を投げかける。
 そんな彼女の様子を見て、あぁまだ彼女は少女のようなのだな、と思い自然と苦笑が漏れる。

「くっくっ、いや、構わん。そうなったのも、君が言うように仕事の虫だった私が悪いのだからな」
「くっ…嫌なやつね。というか、分かっているなら少しは他を頼りなさいよ」
「ふむ、もっともだ。しかし、私は"厳格な王"。中途半端が嫌いなんだ」
「何が"厳格な王"よ。あんたなんか"愚鈍な王"よ。そんな他人に付けられたのに名前負けしてるわ」
「くっくっ、"血に飢えた獣"(ケルベロス)は手厳しいな。強く噛み付いてくる」
「止めてよ。それは昔の名前。今の私は子供たちに安らぎを与える"戦士たちの休日"よ」

 眉を潜め、心底思い出したくないとでも言うように私を一瞥してくる。
 更に茶化してやろうと思いかけたが、止める。余計な言葉など意味が無い。

「話を戻そう。何にせよ、だ。ご苦労だった。その書類には目を通しておこう。そこに置いておいて――」
「――っだーっ、もうっ! ちょっとは他を頼って休みなさいって言ってるの、あたしは!」
「いや、しかしだな…」
「しかしもかかしもない! そんなの明日にまわして、他の子と仕事を分担しなさい」

 彼女は私の言葉に耳を貸そうとせずに一蹴する。
 どうしたものか、と思考を巡らすが、どうやらそのような時間すらも彼女は与えてくれないらしい。

「ほらっ、今日はもう終わりにして飲みに行くわよ。サービス残業はもう終わりっ」
「飲みに、ってお前寮の方は…」
「元々遅くなる予定だったから代わりを頼んであるわ。心配なんかしてないで…て違うわね、逃げる口実なんて考えてないでほら、行くわよ」
「君な、一介のエージェントが支部長を連れだそうなど…」
「働いてる年数的にはほとんど変わらないでしょ。あんたみたいな頑固な子供は一回全部吐き出しちゃったほうがいいのよ」
「子供に酒を飲ませるのか、君は」
「年齢的には問題ないわ」
「あのな――いや、もういい」
 
 どうやっても彼女を説き伏せるのは無理らしい。
 書類の山と彼女を一度見比べてから、彼女の有無を言わせぬような瞳に根負けをする。

「…わかった。私の負けだ。今日は君に付き合うよ」
「そうそう、聞き分けのいい子は好きよ、あたし」
「そうか、私は君が苦手だよ」
「嫌い、と言わない辺り脈がありかしら」
「オブラートに包んでやっている事を理解してほしいな」
「ふふ、本当のところはどうかしらね。さ、行きましょ」
「…ああ」

 偶にはこうした息抜きもよいだろう。
 書類の山を崩れないように配置しなおしてから立ち上がる。
 見ると彼女は既に部屋のドアを開けて私を待っている。
 やれやれ、と息を吐き出しながら歩き出す。
 どうやら、王にも休日は必要らしい。

 

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